
もし、わが子が家を建てるなら。
第7回|家を建てるなら、田舎はやめておけ。
土地が広い。価格も比較的抑えやすい。自然が近く、子どもをのびのび育てられる。田舎には、都会では得にくい魅力があります。
それでも明工建設の住宅事業部長・奥柿は、わが子が家を建てるなら「田舎はやめておけ」と、あえて強く伝えると言います。
理由は、今の暮らしやすさだけではありません。家は30年、40年、その先まで住む場所です。人口が減ったときにも、病院、買い物、交通、学校、行政サービスが残るのか。車を運転できなくなっても暮らせるのか。土地選びでは、現在の景色より、将来も生活が成り立つ場所かを見る必要があります。
住宅営業柴田
奥柿さん、今回の「田舎はやめておけ」は、かなり強いタイトルですね。田舎暮らしに憧れている方も多いと思います。
住宅事業部長奥柿
田舎の暮らしを否定したいわけではありません。静かで、土地が広く、自然が身近にある。庭で子どもを遊ばせたり、家庭菜園をしたり、周囲を気にせず暮らしたりできる。そうした良さは本当にあります。
ただし、家を建てる場所として選ぶなら、良いところだけを見てはいけません。家を買うとは、その土地の便利さだけでなく、将来の不便まで一緒に引き受けることだからです。
私なら、わが子が「土地が安くて広いから」という理由だけで人口の少ない場所を選ぼうとしたら、一度止めます。
田舎の問題は、遠いことではなく「なくなること」
住宅営業柴田
田舎の不便というと、「駅やスーパーまで少し遠い」というイメージでしょうか?
住宅事業部長奥柿
今は車で15分走れば買い物ができる。病院にも通える。それなら若いうちは困らないでしょう。
でも、人口が減って利用者や働く人が少なくなれば、店が閉まり、バスの本数が減り、病院や学校が統合される可能性があります。問題は、最初から遠いことだけではありません。今ある生活サービスが、住んでいる間に縮小するかもしれないことです。
家は簡単には動かせません。買い物先がなくなっても、病院が遠くなっても、土地と建物はそこに残ります。だから、土地を選ぶときには「今あるか」だけでなく、「この先も維持されそうか」まで見なければいけません。
人口減少は、すでに始まっている
住宅営業柴田
それは、かなり先の将来を心配している話ではないのですか?
住宅事業部長奥柿
いいえ、すでに進んでいます。国立社会保障・人口問題研究所は、2020年から2050年までの市区町村別人口を推計しています。その資料を見ると、人口減少は一部の山間部だけの話ではなく、多くの地域で向き合う問題だと分かります。
さらに、厚生労働省の2022年度調査では、医療機関のない「無医地区」が全国に557地区あり、そこに12万人を超える方が暮らしていました。農林水産政策研究所も、店舗まで500メートル以上あり、自動車の利用が難しい65歳以上の方を「食料品アクセス困難人口」として調査しています。
つまり、医療や買い物に困る地域は未来の想像ではなく、現在の日本にすでに存在します。今後、人口がさらに減れば、同じ問題が別の地域でも起きる可能性を考えておくべきです。
若い今の便利さで、老後の土地を決めてはいけない
住宅営業柴田
車があれば困らない、というご家庭も多いですよね。
住宅事業部長奥柿
若くて運転できる間は、それで生活できます。しかし、年齢を重ねれば、夜間や雨天の運転が負担になるかもしれません。病気やけがで一時的に運転できなくなることもあります。夫婦のどちらかが先に運転をやめる可能性もあります。
そのとき、スーパー、病院、薬局、銀行、行政窓口へどう行くのか。子どもが独立した後、毎回送迎を頼めるのか。タクシーを日常的に使える家計か。ここまで想像して初めて、その場所で一生暮らせるかが見えてきます。
土地は、元気な35歳の自分だけでなく、運転できない75歳の自分にも選ばせる。私はそう考えます。
- 日常の食料品や薬を、徒歩や公共交通で買いに行けるか
- 通院が必要になったとき、無理なく病院へ通えるか
- 子どもの通学や家族の通勤に、送迎が欠かせなくならないか
- 車を2台以上持ち続ける費用を、老後も負担できるか
- 免許を返納した後も、その家で暮らし続けられるか
安い土地が、安い暮らしになるとは限らない
住宅営業柴田
それでも、土地価格が安ければ住宅予算を抑えられるメリットがあります。
住宅事業部長奥柿
土地代だけを見れば、その通りです。ただ、暮らしの総額では違う結果になることがあります。
通勤や通学、買い物のために車が一台多く必要になる。長い距離を毎日走り、燃料費や整備費が増える。上下水道の引き込み、造成、擁壁、地盤改良に費用がかかる。土地が広い分、外構や草刈りの負担も増える。こうした費用を足すと、土地の価格差がそのまま得になるとは限りません。
売却するときに買い手が少なく、価格がつきにくい可能性もあります。将来住み替えたくなったとき、売れない家は家族の選択肢を狭めます。
土地の安さではなく、その場所で一生暮らす総費用と、将来動ける可能性まで見ることが必要です。
「都会に住め」ではなく、「生活が残る場所を選べ」
住宅営業柴田
では、東京や名古屋のような大都市に住むべきだということですか?
住宅事業部長奥柿
そこまで極端な話ではありません。大都市は土地が高く、家が狭くなりやすく、通勤や混雑の負担もあります。家族が望む暮らしによっては、地方のほうが合うことも多いです。
私が勧めたいのは、地方であっても、病院、商業、学校、公共交通、仕事、行政機能が集まりやすい地域の中心や、その中心へ無理なくアクセスできる場所です。
同じ市内でも、中心部に近い住宅地と、山間部や集落の端では将来性が違います。「○○市だから安心」ではなく、生活に必要な機能との距離、周囲の人口、自治体が将来どこへ生活機能を集めようとしているかまで見てください。
地方の中核都市は、現実的な選択肢になる
住宅営業柴田
地方の中核都市や、その周辺を検討するという考え方ですね。
住宅事業部長奥柿
そうです。大都市ほど土地価格が高くなくても、一定の病院や商業施設、学校、雇用があり、周辺地域から人が集まる場所があります。人口減少の影響を受けないわけではありませんが、生活機能が集約される側の地域を選ぶという考え方は大切です。
国も、人口減少の中で医療・福祉・商業などの機能を拠点へ誘導し、公共交通で結ぶ「コンパクト・プラス・ネットワーク」を進めています。これは、どこに住んでも今と同じサービスを維持できるわけではない、という現実への対応でもあります。
地方で家を建てるなら、自治体の立地適正化計画も確認してください。将来、居住や都市機能を維持しようとしている区域が分かる場合があります。
自然を選ぶなら、不便も自分の意思で買う
住宅営業柴田
将来の不便を理解したうえで、それでも田舎に住みたい方はどうでしょうか?
住宅事業部長奥柿
それなら、私は反対しません。自然の中で暮らすこと、広い庭を持つこと、農業をすることが人生の大切な目的なら、その価値は本人にしか決められません。
ただし、「安かったから」「何となく静かで良さそうだから」ではなく、買い物、通院、通学、仕事、車の維持、地域活動、災害リスク、将来の売却まで理解したうえで選ぶことです。
不便を知らずに買うのと、不便を理解して、それでも欲しい暮らしを選ぶのはまったく違う。後者なら、それは間違いではありません。
土地を見る前に、30年後の生活を調べる
住宅営業柴田
候補地が見つかったら、具体的に何を調べればよいですか?
住宅事業部長奥柿
まず、スーパー、病院、薬局、学校、職場、駅やバス停までの距離を、車だけでなく徒歩や公共交通でも確認します。昼だけでなく、朝夕や雨の日にも現地を見てください。
次に、市区町村別の将来推計人口、自治体の立地適正化計画、公共交通計画、学校再編の方針を見ます。店舗や病院が現在あるだけでなく、周辺に一定の利用者がいるかも考えます。
もちろん、洪水、土砂災害、津波などのハザード、道路や上下水道、建築条件も必要です。便利さだけで安全性を捨ててはいけません。
最後に、夫婦のどちらかが運転できない状態を想定して、一週間の生活を書いてみる。そこで生活が止まるなら、その土地は老後の自分たちにとって厳しい場所かもしれません。
- スーパー・病院・薬局まで、車以外でも移動できるか
- 通勤・通学が、送迎だけに依存しないか
- 市区町村と周辺地区の将来人口はどう推計されているか
- 自治体の立地適正化計画で、どの区域に生活機能を集める方針か
- バス路線や学校に、減便・統合・再編の計画がないか
- 車の台数、燃料、保険、整備を含めた生活コストはいくらか
- 災害リスク、道路、上下水道、造成など建築面に問題がないか
- 将来売却や住み替えが必要になったとき、需要が見込めるか
土地の広さより、暮らしの選択肢を残す
住宅営業柴田
奥柿さんが、わが子に一番伝えたいことは何でしょうか?
住宅事業部長奥柿
目の前の100坪より、30年後も暮らしを選べる場所を買いなさい、ということです。
土地が広ければ、今は夢が膨らみます。しかし、生活サービスがなくなり、運転できなくなり、売ることも難しくなれば、その広さが家族を縛ることがあります。
反対に、地方でも生活機能が残る中心地に近く、家族が無理なく暮らせる場所なら、将来も住み続ける、売る、貸す、住み替えるという選択肢を持ちやすい。
私は田舎が嫌いなのではありません。わが子には、土地の安さや広さと引き換えに、未来の自由まで手放してほしくないんです。
今回のまとめ
田舎には、広い土地、静かな環境、自然との近さという大きな魅力があります。そこに暮らすこと自体が目的で、不便や将来の変化まで理解して選ぶなら、田舎暮らしを否定する必要はありません。
しかし、土地の安さや現在の景色だけで決めるのは危険です。人口が減れば、店舗、医療、公共交通、学校などの生活サービスは維持しにくくなります。若いうちは車で解決できても、老後まで同じとは限りません。
土地を選べるなら、大都市だけでなく、地方の中核都市や、病院・商業・交通・行政機能が集まる地域、その中心へ無理なくアクセスできる場所を検討してください。同じ市内でも、将来の暮らしやすさは地区ごとに違います。
家は建てた瞬間より、建てた後のほうが長いものです。今の便利さだけでなく、30年後も生活が成り立つか、運転できなくても暮らせるか、必要になれば売却や住み替えができるか。土地の広さより、家族の選択肢が残る場所を選ぶことが大切です。
参考にした公的情報
人口の将来推計は国立社会保障・人口問題研究所「日本の地域別将来推計人口(令和5年推計)」、無医地区の状況は厚生労働省「令和4年度無医地区等及び無歯科医地区等調査」、買い物環境は農林水産政策研究所「食料品アクセスマップ」、都市機能の集約に関する考え方は国土交通省「コンパクト・プラス・ネットワーク」を参照しています。
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