【仁藤流・歴史経済編】映画『キングダム』を「経済」で見ると景色が変わる。秦を最強国家にしたのは英雄の剣ではなく“つくる力”だった

みなさん、おかげさまです。
明工建設、一級建築士の仁藤衛です。

今回は、映画『キングダム』から少し違った角度で歴史を考えてみたいと思います。

『キングダム』の魅力といえば、やっぱり戦いですよね。

信が駆ける。

王騎が圧倒的な存在感を見せる。

大軍同士がぶつかる。

映画館の大きなスクリーンで観れば、

「強い武将が歴史を動かしている」

と感じます。

ところが私は建築屋だからでしょうか。

あれだけ大勢の兵士を見ると、違うことが気になってしまうんです。

「この人たち、毎日何を食べているんだろう?」

(笑)。

でも、これ。

冗談ではありません。

むしろ歴史を見るうえで、とても重要な質問なんです。

10万人の兵士がいたとして、一人が1日1kg程度の食料を必要とすれば、それだけで1日100トン規模になります。

さらに水。

馬の飼料。

武器。

矢。

衣類。

薬。

それを運ぶ人。

道路。

倉庫。

そして、それらを生産する人々。

こうして考えると、歴史の見え方が変わります。

戦場で戦っている英雄の後ろには、必ず巨大な「経済」がある。

今日は映画のスクリーンにはなかなか映らない、

秦の「勝つための仕組み」

を仁藤流で考えてみましょう。


■なぜ中国統一を成し遂げたのは「秦」だったのか?

そもそも秦は、最初から中国文明の中心に君臨していた国ではありません。

西方に位置し、中原の諸国から文化的に低く見られることもあった国です。

ところが最終的には、

韓。

趙。

魏。

楚。

燕。

斉。

六国を次々と滅ぼし、紀元前221年、秦王政が中国を統一する。

では、なぜ秦だったのでしょう。

兵士が勇敢だったから?

優秀な将軍が多かったから?

もちろん、それもあったでしょう。

でも経済から見ると、もっと大きな理由が見えてきます。

私は一言で言えば、

秦は「勝つ人」をつくったのではなく、「勝ち続けられる仕組み」をつくった。

ここだと思うんです。


■商鞅の改革は「巨大企業の人事制度改革」だった

秦を大きく変えた人物として知られるのが、商鞅です。

商鞅が進めた一連の改革では、法による統治、戸籍・行政管理、農業振興、軍功を基準とする爵位制度などが進められました。

特に面白いのが、

「家柄より成果」

という方向です。

昔から偉い家だから偉い。

親が貴族だから息子も偉い。

ではなく、

戦場で成果を上げれば評価する。

これは現代企業に例えれば、

年功序列・家柄中心の会社へ、強烈な成果主義を導入するようなもの

です。

当然、既得権益を持つ人には面白くありません。

でも秦には改革を進める事情があった。

生き残るためです。


■「田舎だったこと」が、逆に秦の強みになった?

これは企業経営でも面白いところです。

歴史が長い会社ほど、

「昔からこれでやっています」

が増えます。

会議。

人事。

設備。

取引先。

商品。

全部に過去の成功体験がある。

ところが新しい会社には、それがない。

だから、

「それ、本当に必要ですか?」

と言える。

秦についても、古い秩序の中心から距離があったことが、改革を受け入れやすくした一因と見ることができます。

私はここに、

「常識を持っていないことが、時には最大の武器になる」

という面白さを感じます。


■これは住宅業界にもあります

例えば、

「各部屋にエアコンが必要です」

本当でしょうか。

「家は電力会社から電気を買うものです」

本当でしょうか。

「換気をすれば家は負圧になるのは仕方ありません」

本当でしょうか。

「太陽光は売電するための設備です」

本当でしょうか。

私は、

住宅業界の“昔からそうしている”を、一度疑ってみる

ことを大切にしています。

常識を疑う。

測る。

実験する。

改善する。

そして、良ければ変える。

秦が改革によって国の仕組みそのものを変えていったように、住宅もまた、昔の常識に縛られる必要はないと思うんです。


■兵馬俑を見ると「秦という巨大工場」が見えてくる

そして秦の面白さを今に伝えているのが、

兵馬俑

です。

普通に見ると、

「すごい数の兵士の像だな」

となります。

でも、ものづくりをする人間として見ると、違うところに目が行きます。

これだけ大量のものを、

どうやってつくった?

誰がつくった?

どの工房でつくった?

品質はどう管理した?

材料はどう運んだ?

私はそちらが気になる(笑)。

秦の兵馬俑や出土武器については、工房単位の生産組織や品質管理、一定の規格性などについて研究が進められています。

つまり秦は、

大量のモノを一定品質でつくる組織能力

を持っていたと考えられるわけです。


■2200年前の「トヨタ生産方式」?

ここは少し注意が必要です。

秦が現代のトヨタ生産方式やジャスト・イン・タイムを実施していた、とそのまま言うことはできません。

当然ですよね。

2200年以上前ですから。

でも現代人が理解するための比喩として見ると面白い。

一人の天才職人だけに頼らない。

複数の生産単位を組織する。

一定の品質を保つ。

誰がつくったのか分かるようにする。

部品や武器を大量に供給する。

つまり、

「名人の腕」から「組織の品質」へ。

これは、ものづくりにとって大変重要な進化です。


■弩が変えた「兵士のつくり方」

秦の軍事を考える時、弩という機械式の弓も面白い存在です。

普通の弓を高い水準で使いこなすには訓練が必要です。

一方、機械的な発射機構を持つ弩は、武器側が射撃動作の一部を担ってくれる。

つまり、

人間の熟練だけに依存する割合を下げられる。

これ、現代の製造業でも同じですよね。

職人しかできない仕事。

これを治具にする。

機械化する。

マニュアル化する。

標準化する。

すると、より多くの人が一定品質の仕事をできるようになる。

私はこれを、

「技術を人だけに持たせず、仕組みに持たせる」

ことだと思っています。


■明工建設の気密測定も、考え方は同じ

住宅も、

「うちの大工は腕がいいから大丈夫です」

だけではいけないと思っています。

もちろん職人の腕は大切です。

でも、

腕がいいことと、性能を確認したことは別です。

だから明工建設では気密測定をします。

目標となるC値を決める。

実際に測る。

問題があれば確認する。

次の現場へフィードバックする。

これを繰り返す。

つまり、

「たぶん良い家です」

から、

「測定して確認する家」

へ変える。

人を信用しないから測るのではありません。

むしろ逆です。

職人の技術を、数字によって再現可能な品質へ変えるために測る。

これが私たちの考え方です。


■秦を本当に強くしたのは「農業」だった?

ここからが、今回一番伝えたいところです。

どれだけ武器を大量生産しても、

兵士が空腹なら戦えません。

人間は食べなければ動かない。

当たり前です。

ところが戦争映画では、この当たり前がほとんど描かれません。

映画なら、

「全軍、突撃!」

でいい。

でも実際には、

その前に全軍へ飯を食べさせなければならない(笑)。

だから軍事力の根底には、

農業生産力

があります。


■鄭国渠――敵の策略が秦の経済力を強くした

その象徴が、

鄭国渠

です。

韓から来た技術者・鄭国が秦へ大規模灌漑工事を提案した。

その背景については、秦の国力を土木工事へ向けさせて疲弊させようとする韓側の意図があった、と史書には記されています。

ところが秦は最終的に工事を完成させる。

結果として関中平原の農業生産力を高め、秦の国力を支える重要なインフラになった。

これは本当に面白い。

敵は、

「巨大公共事業をやらせれば弱る」

と考えた。

ところが完成したインフラが、

将来の生産能力を増やしてしまった。


■「お金を使うこと」と「浪費」は違う

これは現代でも大切な考え方です。

100億円使いました。

だから無駄。

ではありません。

逆に100億円使ったから正しい、でもありません。

見るべきなのは、

その100億円によって、将来何を生み出せるようになったのか。

です。

道路をつくった。

物流時間が短くなった。

堤防をつくった。

災害被害を減らせるようになった。

農業インフラを整備した。

生産量が増えた。

教育へ投資した。

将来の技術者が育った。

重要なのは支出額ではなく、

供給能力を増やしたかどうか。

ここです。


■都江堰も「自然を力で押さえつけない」巨大インフラ

秦の時代を考えるうえでもう一つ面白いのが、四川の都江堰です。

水を巨大な壁で単純に止めるのではなく、地形と水の流れを利用しながら分水・治水・灌漑を行う。

私は建築屋なので、こういうものを見ると感動します。

自然と戦うのではない。

自然の性質を理解して利用する。

これは私たちの家づくりにも、そのまま通じます。


■夏の暑さをエアコンの力だけで押さえ込む家でいいのか?

例えば猛暑。

家が暑い。

では、

「大きなエアコンを付けよう」

となる。

私は、それだけでは違うと思っています。

太陽がどこから入るのか。

窓の日射をどう遮るのか。

断熱はどうするのか。

気密はどうするのか。

湿気はどうするのか。

空気をどう動かすのか。

それを先に考える。

つまり、

自然に逆らって設備の力でねじ伏せるのではなく、自然の性質を利用して必要エネルギーを減らす。

都江堰の考え方を住宅へそのまま持ってくるわけではありません。

でも、

「力任せに解決しない」

という思想には、私は非常に共感します。


■長平の戦い。本当に怖いのは「兵糧を断たれること」

そして戦争における供給能力の恐ろしさを象徴するのが、長平の戦いです。

趙軍は長期間にわたり厳しい補給状況へ追い込まれ、最終的に大敗します。

後世の史書には極限的な飢餓状態を示す記述もあります。

ここで重要なのは、

強い兵士でも、

勇敢な将軍でも、

食べ物がなくなれば戦えない

ということです。

当たり前ですよね。

でも、この当たり前こそが兵站です。

どんな英雄でも、

水がなければ動けない。

食料がなければ戦えない。

矢がなくなれば射てない。


■住宅にも「兵站」がある

では家庭ならどうでしょう。

電気。

水。

食料。

温度。

空気。

通信。

これらが家庭の生活を支えています。

普段は蛇口をひねれば水が出る。

スイッチを押せば電気がつく。

だから私たちは意識しません。

でも、

大地震。

停電。

断水。

物流停止。

そんな時に初めて、

「暮らしにも兵站があったんだ」

と気づく。

だから私は、これからの住宅は、

家庭のロジスティクスまで考える必要がある

と思っています。


■李信20万、王翦60万から何を学ぶのか

秦による楚攻略では、若い李信は20万で可能と答えた一方、王翦は60万が必要だと主張したという有名な話があります。

秦王政は最初、李信を採用する。

しかし李信は敗北。

そこで王翦へ再び頼み、王翦は大軍を率いて楚攻略へ向かう。

この話を、

「若者は調子に乗った。老人は慎重だった」

だけで終わらせたら、もったいない。

60万という数字が史書の記述どおりの実数だったかは慎重に考える必要がありますが、ここで重要なのは、

巨大な軍を長期間維持する国家能力

です。


■「待てる」というのは、実はものすごく贅沢

王翦の面白いところは、

すぐに決戦しないことです。

守る。

兵士を休ませる。

食べさせる。

敵が疲れるのを待つ。

でも考えてみてください。

待っている間も、

何十万人という兵士は毎日食べます。

つまり、

経済力がなければ「待つ」という戦術そのものが取れない。

これ、会社経営でも同じなんです。

資金がない会社は、

すぐ売上をつくらなければならない。

だから目先の仕事へ飛びつく。

余裕のある会社は、

研究する。

教育する。

設備投資する。

将来へ向けて準備する。

「待てる力」も供給能力なんです。


■家も「余裕」が強さになる

例えば真夏の停電。

ギリギリの性能で設計された家なら、エアコンが止まった瞬間から室温が上がっていく。

でも断熱・気密・日射遮蔽が整った家なら、条件によっては室温変化を緩やかにできます。

そこへ、

太陽光。

蓄電池。

必要に応じてV2H。

がある。

すると、

復旧まで待てる可能性が高まる。

私はこれを、

住宅の「待てる力」

だと思っています。


■だから高性能住宅は、単なる省エネ住宅ではない

高断熱にすると電気代が安くなる。

高気密にするとエアコンが効きやすい。

もちろん、それもあります。

でも本質はもっと深い。

少ないエネルギーで生活を維持できる。

これです。

必要エネルギーが小さければ、

太陽光で賄いやすい。

蓄電池も長く使える。

非常時にも生活を維持しやすい。

だから私は、

高断熱・高気密を、

家庭の「供給能力」を強くする技術

としても考えています。


■「富国強兵」には順番がある

今回の資料で最も重要なメッセージは、ここではないでしょうか。

富国強兵。

普通は一つの四字熟語として覚えます。

でも分解すると、

富国。

そして、

強兵。

まず国を豊かにする。

農業生産力を上げる。

道路をつくる。

水を管理する。

倉庫をつくる。

武器をつくる。

品質を管理する。

人材を育てる。

その結果として、

軍事力を維持できる。

つまり、

「強い軍隊をつくったから秦が豊かになった」

だけではない。

強い供給能力があったから、強い軍隊を維持できた。

順番が大事なんです。


■これは家づくりでも順番を間違えてはいけない

例えば、

「電気代が心配だから太陽光を載せましょう」

ちょっと待ってください。

その前に、

その家は電気をたくさん使わないと快適にならない家ではありませんか?

私はそこから考えます。

まず、

断熱。

気密。

窓。

日射遮蔽。

換気。

湿度。

空調。

ここで必要エネルギーを減らす。

そのうえで、

太陽光。

蓄電池。

HEMS。

EV。

V2H。

を組み合わせる。

つまり、

「省エネ」→「創エネ」→「蓄エネ」→「エネルギー自立度を高める」

この順番です。

巨大な蓄電池を入れれば高性能住宅になるわけではありません。

秦が武器だけ大量につくっても勝てなかったのと同じです。


■本当に強い家は「何かあった時」に分かる

普段は、どんな家でも暮らせます。

春や秋なら、大きな差を感じないかもしれません。

でも、

外気温35℃を超えた時。

真冬の朝。

大型台風。

停電。

地震。

電気料金の高騰。

そんな時に、

家の「地力」が出ます。

私は、家族に頑張らせる家ではなく、

家そのものが頑張ってくれる住宅

をつくりたい。

だから明工建設では、

「設備を何個付けたか」

ではなく、

家全体を一つのシステムとして考える。

これを大切にしています。


■キングダムの本当の主人公は「見えない人たち」なのかもしれない

映画では、英雄が映ります。

当然です。

農民が一日中、麦をつくっている映画では興行になりませんから(笑)。

でも歴史の現実では、

田畑を耕した人。

運河を掘った人。

道をつくった人。

穀物を運んだ人。

倉庫で管理した人。

弩をつくった人。

矢をつくった人。

馬を育てた人。

そういう無数の人たちがいた。

その人たちが、

英雄が戦える環境をつくっていた。

私は建築も同じだと思っています。


■一棟の家にも、たくさんの「見えない英雄」がいる

大工。

基礎職人。

左官職人。

電気屋。

水道屋。

屋根屋。

板金屋。

断熱施工。

設備メーカー。

設計。

現場監督。

完成した家には見えません。

でも、その人たちの仕事が一つでも欠ければ、良い家にはならない。

だから私は、

家づくりも英雄一人ではできない

と思っています。

設計士一人が天才でもダメ。

大工一人が名人でもダメ。

チームとして、

一定品質を、

毎回、

再現する。

これが本当の住宅性能です。


■仁藤流の結論。「最強」とは、派手な力ではなく“続けられる力”

『キングダム』を観れば、どうしても強い武将へ目が行きます。

でもスクリーンを少し引いてみる。

すると、

その後ろに農地があります。

運河があります。

道路があります。

倉庫があります。

工房があります。

そして、

巨大な経済があります。

だから今回、私が秦の歴史から学んだことは非常にシンプルです。

強さとは、「一発の大きな力」ではなく「必要なものを供給し続けられる力」である。

企業もそう。

国家もそう。

そして家もそうです。

真夏に一瞬だけ20℃にできる家より、

少ないエネルギーで24〜25℃前後の快適な環境を維持できる家。

停電した瞬間すべて止まる家より、

太陽光や蓄電池によって、条件の範囲内で生活を維持できる家。

電気を大量に買い続けなければ成立しない家より、

自分でつくり、貯め、賢く使える家。

私は、こちらの方が「強い家」だと思っています。


■2200年前の秦から、30年後の家を考える

家づくりを考えている皆さん。

モデルハウスへ行った時、

キッチン。

お風呂。

床材。

壁紙。

もちろん見てください。

でも、もう一つ質問してみてください。

「この家は、暮らしに必要なものをどれだけ少ないエネルギーで供給し続けられますか?」

この質問をすると、

住宅の見え方が変わります。

家は完成した瞬間がゴールではありません。

そこから、

10年。

20年。

30年。

40年。

家族の暮らしを支え続けなければならない。

だから私は、

住宅性能とは“供給を続けられる能力”でもある

と思っています。

映画『キングダム』の英雄たちは格好いい。

でも、その英雄を動かしたものを考えてみると、

もっと面白い歴史が見えてきます。

英雄を動かしたのは、経済だった。

そして経済を支えたのは、

人。

技術。

食料。

インフラ。

物流。

つまり、

「つくる力」と「届ける力」だった。

これからの日本にも必要なのは、案外ここなのかもしれません。

そして、これからの家づくりにも必要なのは同じです。

豪華な設備を競うのではなく、

少ないエネルギーで、家族の暮らしを長く支え続けられる仕組みをつくる。

明工建設が目指すスマートオフグリッドハウスも、その延長線上にあります。

歴史を知ると、未来の見え方が変わる。

未来の見え方が変われば、家づくりも変わる。

次に『キングダム』を観る時には、ぜひ英雄たちの後ろ側を想像してみてください。

「この10万人のご飯、一体誰が運んでいるんだ?」

そこから見えてくるものこそ、歴史を本当に動かしていた力なのかもしれません。

ご縁を大切に唯一無二の家造り。

住んでからがお付き合いの始まり。

おかげさまでありがとうございます。

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